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教育コラム9_あいうえおの魔法、未来をひらく

こんにちは。
関西創価小学校 参事の三島千晃です。

オリンピックやパラリンピックでの選手たちの活躍は、私たちに夢と感動を与えてくれます。しかし、現代のように車や飛行機などの移動手段が発達した時代に、100分の1秒を縮めたり、1センチの記録を更新したりすることに対して、「なぜ人はそこまで挑むのだろう」と疑問に思うこともあります。
この答えは、おそらくスポーツが持つ特性――すなわち「人間の可能性を追求する」ことに関係しているのかもしれません。その挑戦に私たちは共感し、深い感動を覚えるのでしょう。

パリ オリンピック・パラリンピック

◆「文武両道」の意味って?


スポーツと聞くと「文武両道」という言葉が思い浮かびます。この四字熟語は、古くから学問と武芸の両方に優れていることを指す言葉として使われてきました。
現代では、勉学とスポーツの両立を果たす人々を称える際に、教育現場でも頻繁に用いられています。

著名な医学博士であり解剖学者の養老孟司さんは、「文武両道」について興味深い見解を述べています。
「本来の文武両道の“文”とは、脳に入るほうでいわゆる『知育』です。“武”というのは、出すほうで、つまり『体育』です。『文武両道』とは、本来、入力した結果を身体で動かすことによって新たな入力を得る、という意味だったのでしょう。ところが、いつごろからか、勉強も運動もできる、というように、別々のものにしてしまったのです。」
(『バカにならない読書術』より)

このように、養老さんの言葉は、「文武両道」という言葉が持つ本来の意味について再考を促すものです。

◆横から縦の循環関係へ


現代では、文武両道の意味は、学業とスポーツの両立や、知識と実践のバランスを保ちながら取り組むことを指すことが一般的です。いわば、“横の関係″です。

しかし、これを「入力が出力につながり、さらに次の入力を生む」という“縦の循環関係”として捉える見方へと転換することができます。
この新しい見方は、勉強と運動の両立を目指すという、やや重圧を感じるイメージが、「インプット⇒アウトプット⇒インプット」というリズムよく進む、ダイナミックなイメージへと変わります。

入力(インプット)は、人間の視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚という五感を通じて得られる感覚や経験を指します。これに対して、出力(アウトプット)は、単に身体を動かすだけでなく、コミュニケーションや表現活動も含まれるものです。
このように、入力と出力を交互に繰り返すことで、学びと実践が互いに補完し合い、成長が促進されるのです。

◆子どもたちの学びのサイクル


私たちが日常で子どもを見ていると、彼らが「循環しながら学びを深めていく」ということを実感します。

思い切り身体を動かし、たくさんおしゃべりをした後の子どもの表情は、生き生きとして輝いています。逆に、雨の日が続いて外で遊べないと、なんとなく調子が悪そうです。そんな時は、学び(インプット)がうまく進まないことが多いように感じます。

本来、子どもたちは「知りたい!」「学びたい!」というすごいパワーの持ち主です。
花や虫、珍しいものや新しいものに出会うと、必ず何かしらの反応を示します。その瞬間、子どもは大人の方を振り返ったり、質問したりします。
この反応こそ、子どもが学びを出力している時であり、その瞬間がとても重要なのです。
私たちが「きれいだね」「不思議だね」「すごいね」と、笑顔で“共感”を示すと、子どもの表情がパッと明るくなります。この共感が、次のインプットに繋がるのです。
こんな風に、子どもたちの学びは、インプットとアウトプットの循環を繰り返しながら深まっていくのです。

子どもの反応に共感

◆共感から始まる学びの輪


創立者池田先生は、
「お子さんが新しいものに触れたとき、その驚きや反応に対して、親が一緒に感動してあげるか、それとも無関心に聞き流してしまうかで、その後の人生の幅が大きく変わる」
と述べられています。

お父さんやお母さんが、子どもと一緒に活発に身体を動かし、遊びの中で子どもの言葉やつぶやきに耳を傾けてあげると、子どもは自然と心を開いて話し始め、親子のコミュニケーションが深まります。
このように、共感をもって応答し、楽しい会話を重ねていくことが、循環する「文武両道」の成長を支える大切な要素になるのです。

◆子どもは「もの」より「こと」好き


日本語には「もの」と「こと」という言葉がありますが、子どもたちは本来、「もの(物)」よりも「こと(事)」が大好きです。

何かをつくること、遊ぶこと、一緒に過ごすことなどがその例です。
私たちが子どもに与える最上のものは、子どもとの時間や感覚を「共にする」こと、つまり「共有する」ことです。
しかし、それは時間をたっぷりかけて遠くへ旅行したり、テーマパークに行ったりすることだけが大切なのではありません。親子で散歩をしたり、公園で遊んだり、一緒に家事をしたりと、日常の何気ない時間を共に過ごし、共有することこそが、かけがえのない大切な時間となるのです。

一緒にかけがいのない時間を

◆あいうえおの魔法、未来へつなぐ


あるお母さんは、「共感の“あいうえお”」という言葉を大切にして子どもと関わっているとお聞きしました。ここでご紹介します。

「あ」 は、“ありがとう”。
「い」 は、“いいね”。
「う」 は、“うれしいね”。
「え」 は、“えらいね”。
「お」 は、“おもしろいね”。

こうした言葉をかけられた子どもの嬉しそうな表情が目に浮かびます。

現在、人格形成に最も重要とされているのが就学前の時期です。
子どもはこの数年間、自分が置かれている環境をほとんど記憶に留めないまま過ごします。しかし、だからこそこの時期に、子どもたちが親や周囲の人々から十分な愛情を受け取ることが重要です。そして、“心地よい循環のリズム”を感じ取ってほしいと願います。

子どもの心の奥底にある無意識という大地に、その記憶は蓄えられます。蓄えられた記憶は、地下深くに埋もれた石炭や石油のように、後の人生を支える“生きる力(エネルギー)”となると信じています。


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